2018/12/06

「旅立ちの準備体操」

~できる限り楽に死を迎えるために~
  
私はお坊さんとして、いつもお檀家様にできるだけいい感じに死を迎えてほしいと願っている。いい感じに死を迎えるとは、納得して死ぬ。満足して死ぬ。いつ死んでも後悔はない。そういう心境。つまり、いつか訪れる死を一生の終わりで、ことさら辛いものや怖いものと悲観するのではなく、楽()に死を迎えてほしい。それが私の願いである。
  
とはいえ、その望みが叶う人はどのくらいいるだろうか。多くの人は、楽には死ねず鬱々とすると思う。なぜかといえば、日本人の二人に一人はガンになる時代。脳の疾患で半身不随になる人も、老いて足腰不自由になり、寝たきりになる人もいる。自分は健康でも、家族が病気になれば介護も必要。だから、ある朝起きたらポックリ死んでいた。いわゆるPPK、ピンピンコロリ。これは夢のまた夢の話。
 
我々の人生の特に後半は、死ぬその時まで、老いと病との格闘である。二五〇〇年前に、お釈迦様も人間の一生は四苦八苦と説いた。その苦は、どのように生まれるかといえば、自分の人生を自分の思い通りにコントロールしようとするから生まれる。自分の思いの理想と現実の差が苦しみの元というわけだ。
 
若い人でいえば、例えば、いい成績をとらなければ。いい仕事に就かなければ。いい相手と結婚したい(私のこと)。息子をいい大学に入れたい。いつも家族を含む自分の人生を、自分の思い通りにすることに精一杯。これが苦しみの元。お釈迦様のいう四苦八苦。
 
それは、お年寄りでも同じ。病気に縁がなかった人生から一転、病気になり、自分の身体が思い通りにならなくなり苦悩する。物忘れも、自分の行動がわからなくなる認知症が不安だから怖くて苦悩する。周囲に迷惑はかけたくないし、醜い姿は嫌。目を背けたくなる老いと病の現実。お釈迦様のいう生老病死の四苦。
 
勿論、この自分の思いや四苦八苦を苦痛に感じない人は、そのまま生き抜けばいい。しかし苦痛に感じたら、仏教には頼るだけの価値がある。この自分の思い通りにならない苦に、お釈迦様は、どう対応するよう勧めるのか。その思いにとらわれて苦しむのではなく「感じて、ゆるす」ことが大事と説く。自分の思いにこだわらず「感じて、ゆるす」。自分の思いに溺れるのではなく「感じて、ゆるす」。
 
「感じる」とは、思いにとらわれている自分を、心の中のもう一人の自分が、観察する態度。「ゆるす」は、もう一人の自分が、思い通りにならない自分を諦めている状態。諦めるは、仏教ではマイナスの意味でなく、明らかに見る、つまびらかに見る、という意味。つまり「感じて、ゆるす」は、その思いで頭がパンク、またはパニックする自分を、心の中のもう一人の自分が、「観察して諦める」、自分を達観している状態といえる。
 
これを体得する人は、人生に四苦八苦して鬱々とする様子が少ないようにみえる。穏やかで柔和。すべてを包み込み受け入れる空気感。お檀家様には沢山そういう方がいる。その意味では、私が一番「感じて、ゆるす」から遠い絶賛人生の闘争、四苦八苦状態ともいえる。でも私は、今のところ、それが苦痛ではない。だから徹底的に観察して諦めながら生きていく。
 
この「感じて、ゆるす」を体得したら最後の仕上げがある。それが「てばなす」。頭に浮かんでくる思いを「てばなす」。自分のこだわっている大事なモノを、「てばなす」。これは仏教で安楽の法門とよばれる。執着から離れる断捨離と同じ。手放せられれば自分が精神的に楽なのだ。これを突き詰めると、最後は自分自身を「てばなす」ことができる。これが仏の教えの要、無我の教え。
 
女優の樹木希林さんは、生老病死の四苦を「感じて、ゆるし、てばなす」を体現されたような言葉を残している。

自分が死ぬときに、最後まで使い果たしたこの命を神仏にお返しする心。自分自身の命を「てばなす」。私の憧れる悟りの境地。私も彼女のように、自分を使い切って死にたい。
 
この生死に関連して今秋、九死に一生を得た安田純平さんの言葉も紹介する。

私たちの多くは、平均寿命の八〇歳くらいまで生きられると、普段なんとなく思っている。しかし、当然だが、病や不慮の事故は、誰にでも襲いかかる。そんな災難に見舞われた時、本人も周囲もやりきれない気持ちになる。その七転八倒する思いを少しでも軽く治めるために、日々から自分の死について感じる。自分の死と向き合う時間が大切だと思う。この旅立ちの準備体操が、自分の人生を使い切るための第一歩となり、楽に死を迎えることに繋がっていくのではないだろうか。
 
師走に、お寺から「死」を主題にしたお便りをお送りして、万が一、気分を害された方がおられたら申し訳ありません。
 
今年の副住職の流行語大賞は、
「感じて、ゆるす」最後は「てばなす」
これが皆様の人生を充実させる一助になることをお祈り申し上げます。今年もお世話になりました。来年も宜しくお願い申し上げます。
 
なお「感じて、ゆるし、てばなせないもの」が、自分の人生で譲れないこだわりであり、価値ともいえます。それに気づくためにも、旅立ちの準備体操は有用。

※楽…心身に苦しみがなく安らかなこと。苦労するまでもなくたやすいこと。

2018年 曹流寺 暮れお便り 堀部遊民



                   
 流行語大賞の元ネタ

「感じて、ゆるす仏教」
 尊敬するお二方の坐禅にまつわるぶっちゃけ対談本。

「てばなす」
 2018年度グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)を受賞した団体「おてらおやつクラブ」が創刊したフリーマガジン。

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